「夜分に申し訳ありません。最上キョーコさんはご在宅ですか?」

居酒屋を経営している夫妻なら未だ起きているだろう
案の定未だ明るい店を見てホッとすると、入口を潜った

俺の声に気づくと、大将と女将さんが揃って俺を見た

「…………久しぶりだな」

大将の強い意志を込めた目がジッと俺を見た
知っている…彼らはこの1年を…

「…お久しぶりです……あの、夜分に申し訳ないのですがキョーコさんは」
「アイツは居ない」
「え…?」
「アイツはもう居ない。だから帰ってくれ」

アイツハ モウ イナイ

俺は大将の言っていることが理解できなかった

ここと俺の所以外にキョーコは何処にいるんだ?

「…仕事ですか?」
「違う」
「じゃあ何処に行ったんです?ここ以外に…」
「そうさ。アイツはこことお前の所以外行く所なんて無かったんだ」

ギッと睨み付けた大将の肩を女将さんが優しく叩いた

「アンタ…」
「おめえは黙っていろ。俺にはアイツの分もコイツに言うことがあるんだ」
「ダメだよ。そんなことしてもキョーコちゃんは喜ばないさ」

女将さんの静かな声に大将はハッとすると、フイッと横を向いた

「済まなかったね」
「いえ…謝るなら俺、いや僕が謝るべきなんです」
「…うちらに謝る必要はないさ。若いうちは色々ある、ね、あんた」

女将さんが投げかけた言葉にも、大将は1つ唸ってみせるだけだった

「拗ねているんだよ。娘がいなくなっちまったから」
「そうだっ!キョーコさんはどこに?」
「申し訳ないけどうちらには言えないよ」

女将さんが首を振ったとき、カラカラと店の入口が開く音がした

「すみません、もう閉店………あ」
「夜分にすみません。うちの馬鹿な俳優を迎えに来ました」

声のした方を見ると、社さんが呆れた顔で入口に立っていた
そしてツカツカと俺の傍に来ると、グイッと腕を引っ張った

「社さん!?」
「帰るぞ。……大将、女将さん、夜分に失礼しました」
「いいえ。またモー子さんとお店に来てください」
「はい」

そう言うと社さんは抗う俺の腕を引いて車まで連れて行った

「ほら、早く運転しろ」
「何するんですか?それに俺には行く所が」
「社長の所か?無駄だ。マリアちゃんが大層ご立腹だからな、社長には会えん」
「え…?」
「社長からの支持は受けている。とにかくお前のマンションに帰るぞ」

そう言って社さんは俺を後部座席に押し込んだ
そしていつの間にか呼んでいた代行サービスの運転手に俺のマンションを告げていた


Eyes #07


「本当に良かったの?」

空港について監督に電話をしたら"迎えをやる"と言われたので私たちはお茶することにした

「何が?」
「何がって…敦賀さんのことよ」
「うん…もう良いの」
「そう…多分敦賀さん、思い出したら思いっ切り後悔するわね」
「そう…かな…?」

私は人生とは選択の連続で、常に選択を迫られ、1つ選べばまた先に選択肢があると思っている
どちらを選べば幸せになるか、ではなく、どちらを選んでも幸せになる努力をするのだ
どちらを選べばより幸せか、と考えるのは難しい
結局人生はなるようにしかならないのだ

「蓮には幸せになって欲しいな」
「そう」
「だからモー子さん、もし蓮が私のことを思い出したら伝えてくれないかな」
「…何て?」

私はモー子さんの耳元でこそこそっと告げた

「…それでいいの?」
「うん」

「あ、京子だっ!!」

ざわついた空港ロビーで、私とモーコさんはバレたかと身構えた
しかし、何も起きない
キョトンとした私と対照的に、何かを見つけたモー子さんが肩を叩いて一点を指した

「ああ…CMか」

『私を思い出して』

これは蓮へのメッセージ
さっき少し漏れてしまったけど、封印した私の本音

「愛しい男を連想しろ」と黒崎監督に言われて思い浮かんだのは蓮だった
あの目線の先には蓮だけがいた

「本当に綺麗なCMよねぇ。相変わらず化ける化ける」
「むう…せめて返信するって言ってくれない?証明写真とかは普通なのにな」
「へえ…まあそうよね。証明写真機の前で演じていたら怖いわ」

そう言ってモー子さんが運転免許証を貸してくれたので、パスポートを渡した
美人はどうやっても美人らしい
モー子さんは証明写真でもすっごく綺麗だった
フッと見ると、モー子さんが1枚の写真をピラピラと見せながらニヤッと笑った

「敦賀さんが撮ったの?」
「そう///」
「ふぅん…上手いじゃない」

" キョーコ、この体勢でツーショット写真ってどうやって撮るの?"
"こうやって腕を伸ばして…ああ、もっと上。女子高生の常識よ"
"うわっ、撮り辛いっ!… 俺、女子高生を演じたことないからなぁ"

笑いながら敦賀さんが長い腕をいかして撮ってくれた2人の写真
モデルしていて撮られ慣れているからか
蓮は撮るのも上手い

2人で談笑に華が咲いているとき、私の肩がポンッと叩かれた

〔ミス・キョーコ?〕

立っていたのは背の高い知らない男の人だった



〔あら、酷い顔〕

不貞腐れていると自覚している分、出迎え早々言われた一言がズシンと来た

〔スージー…彼女は?〕
〔帰ってもらったわ。まあ、仕事って言っておいたから〕
〔何で?〕
〔まあ計画を聞きなさいって。あ、ミスター社、お迎えご苦労様〕
〔ミズ・レヴィー、連絡ありがとう。ああ、もう少しで奏江からも連絡がくるかな〕
〔そうね、そろそろ時間だもんね〕
〔2人とも?時間って何?〕
〔〔シンデレラ=リミット〕〕

2人は声を合わせてサッパリ判らないことを言った
シンデレラ=リミットって、0時に何があるんだ?

〔そんなことより、俺はキョーコを探しに行きたいんだけど〕
〔探すって…何処を?闇雲に探しても絶対に見つからないよ〕
〔…社さんは知っているんですか?〕
〔ああ、勿論〕

「教えろ」と掴みかかろうとしたのをスージーが止めた

〔クオン、それよりも私たちにいうことがあるんじゃない?〕

そうだった

俺は居住まいを正すと、ペコリと頭を下げた

〔ご迷惑をお掛けしました。スージー、手助けしてくれてありがとう〕
〔あなたの為じゃないわ。おじ様たちと、何よりキョーコの為よ〕

礼を言われたスージーはポッと頬を染めて慌てて言った
意外に照れ屋な辺りは幼少期と何も変わらない

〔とにかくキョーコちゃんの作ってくれた料理を食べながら話そう〕
〔あ、そうね。とにかく腹ごしらえよ。腹が減っては戦は出来ぬ〕
〔…何処で覚えたの、そんな言葉〕
〔キョーコに聞いたわ。あなたの偏食が過ぎるって愚痴と一緒に〕

そう言うとスージーは割り箸(勿論持参)を出して、3人で食事をした

上手い…

確かにあのお弁当の味だ
どうしてこんな美味しい物を忘れていたんだろう
(記憶の底では覚えていたけど)


〔これはヒズリのおじ様が調べたことだけど、アカトキは経営が危ないらしいわ〕
〔去年、不破を初めとしてミリオン箱が移籍したからな〕
〔まあ、あのお馬鹿なキョーコの幼馴染もその点は馬鹿じゃなかったようね〕
〔ああ、だからアカトキの社長はあんなに俺に移籍を進めていたんだ〕

恭子と彼女の伯父、つまりアカトキの社長は何度も移籍を進めてきた
俺自身も宝田社長と微妙な関係だったから、正直何度か移籍を考えはした

〔そこに舞い込んだのがクオンの記憶喪失騒ぎ。それを利用したのよ〕
〔恭子さん自身も蓮に熱を上げていたからな。伯父と姪で利害が一致したんだろう〕
〔そうね。それでクオンの担当医を自分の息の掛かった医師に変更〕
〔前の先生は老齢という理由だったが、嘘だな。俺や社長の接触を阻みたかったんだ〕
〔あの老先生は?〕
〔ああ、彼なら蓮の主治医に今日付けでなった。宝田社長が手を回している〕

話をしながらも凄いスピードで箸は進み、「足りない」と言って社さんは冷蔵庫からも出してきた

〔社さん、それはキョーコが俺の為に〕
〔キョーコちゃんに料理を作るプランを言ったのは俺だから、俺にも食べる権利があるぞ〕
〔キョーコの料理を美味しく感じるのは記憶が戻ったからよ。私にも食べる権利があるわ〕
〔そんな…それは屁理屈…〕

このときほど俺は自分の小食を恨んだことは無かった
箸を進めるスピードが落ちてきた俺に比べ、2人は一切変わらぬスピードで食べ続ける
俺の大好物があっという間に消えるのを見て、俺は大きく溜息を吐いた



〔主人に言われてお迎えに上がりました〕

サングラスを掛け帽子を目深に被った茶色い髪の背の高い男性が頭を下げた

〔あなたが監督の言っていたお迎えですか?〕
〔はい。早速手続きをしますので、パスポートを〕

差し出された大きな手に私のパスポートを乗せる

「キョ…キョーコッ!?あんた、何て無用心なっ!!」
「何で?え…?」
キョーコ!!お前って子は、よく知らない人をホイホイ信じちゃダメじゃないか〕
「「え…?この声は…」」

目を見開く私たちの前で、男性はサングラスと帽子を外すと再び口を開いた

「知らない人をそう簡単に信用しないこと!パスポートを渡すなんて言語道断!」
「先生!?何で…」
「返事!」
「はっ、はい!」

ついピシッと敬礼までしてしまった私の頭を、先生はポンッて叩くとにっこり笑った

「よし、いい子だ。久しぶりだな、キョーコ。元気そうで良かった」
「ミスター・ヒズリ?あなたがキョーコの迎え?監督は?」
「ミス琴南も久しぶりだな。ああ、私とルイス監督は親友なんだよ」
「「親友!?」」
「正確には妻を通してな。ジュリとクラリスは幼馴染なんだ」

次々に明かされる事実に、世界の意外な狭さを感じてしまった
"人類みな兄弟"は強ち嘘ではないかもしれない…


「さあ、キョーコ。ゆっくりしている暇は無いぞ。そろそろ飛行機に行こう」

そう言われて私はモー子さんを見た
そしてモー子さんにギュッと抱きつくと、モー子さんはポンポンッと背を叩いてくれた

「淋しくなるわ」
「私も…」
「日本に来るときは必ず連絡してね」
「うん。あ……モー子さんのマンションの鍵を返さなきゃ」

私は慌ててモー子さんから離れると、モー子さんのマンションの鍵を取り出す
「ありがとう」と言って差し出した鍵を、モー子さんは首を横に振って受け取らなかった

「アンタが持っていて。親友の証に」

そう言って笑ったモー子さんは、今まで見たどんなモー子さんよりも綺麗だった
私はモー子さんにあわせてくれた神様に感謝した


「いい友達をもったな」

モー子さんと別れて空港ロビーを歩いているとき先生が言った
私は感動で言葉が出なかったので、ただ頷くだけだった



『小休止』と言って2人が箸を止めたとき、グッドタイミングで電話が鳴った
「俺だ」と言って社さんが慌てて手術用の手袋を嵌める
相変わらず見事な装着の早さ、鮮やかさだ

「もしもし、あ、奏江?……うん、うん…分かった。…そう、蓮のマンション…うん、了解」

電話を切ると、社さんはスージーに笑った

〔予定通りです。奏江もいまこちらに向っているそうです〕
〔あら、じゃあカナエが来たら食後のデザートにしましょう。手作りプリンがあったもの〕

…まだ食べるのか…

俺は脱力してしまった



「ほら、キョーコ。お前から入るんだよ」

そう言って先生は飛行機の入口を指差してくれた
自家用機なんて初めてで………緊張する

ドキドキしながら入口を潜った瞬間、パパパパンとクラッカーが鳴り響いた

「え!?」
誕生日おめでとう、キョーコッ!!

え…?

目の前にはルイス監督と奥様、そしてジュリウェラさん…
先生を見ると、ニヤニヤと笑っていた

ええぇぇ!?

〔まだ誕生日だろう?俺たちにも御祝させてくれ〕

そう言って先生がポンッと私の頭を叩いてウインクした
声を出したら泣いちゃいそうだったので、私はただ頷くことしか出来なかった


〔これはボスから…で、これがマリアちゃん…こっちが社君で…これが奏江君かな〕

景気良く詰まれた箱を指差しながら説明をする
全部私への誕生日プレゼントだというから驚いた

〔こっちが…ブリッジロック一同?…で、これがスージー…で、これが不破君だ〕

驚くことにショータローもプレゼントをくれたらしい
一時期ヤツには殺意を持っていたが、いまでは良い幼馴染だ
女関係のだらしない男だったが、今では祥子さん一筋で仕事を頑張っているらしい
二人で新しい事務所を作って移籍すると聞いたときは、色々手助けしたものだ
(蓮は妬いていたけど、私の"お願い"に負けて色々協力していた)

〔ほお…これは良い酒だ。だるまや夫妻だな〕

"だるまや"と聞いて、どこかに飛んでいた意識を先生に向けると日本酒の瓶を持っていた

〔キョーコ、折角の20歳の祝いだ。成人を祝して飲んでみるか?〕
〔…先生が飲みたいんでしょ?米国についてからでも良いじゃないですか〕
〔あら、それは無理なのよ。アメリカでは成人は21歳なの。だからあと1年待たなきゃ〕

クラリスさんがお猪口を渡しながら笑って教えてくれた
結局皆で飲むらしい

〔うちに届いた荷物を見たけど、随分少ないのね〕
〔そうですか…うーん、そうかも。洋服は好きなんですけど…高くて〕
〔それで躊躇しちゃうのね。彼も言っていたわ、"キョーコはいつも遠慮する"って〕

蓮に良く似た顔をしたジュリウェラさんが微笑いながら言った

〔じゃあNYに着いたら一休みして、買い物に行きましょう。どうかしら、クラリス?〕
〔良い案ね。家具も見に行きたいわ、キョーコの部屋はまだまだ殺風景だし〕
〔あら。じゃあロスに用意したキョーコの部屋用にも何か買いましょう〕
〔ロスの…部屋…?〕

戸惑う私に先生が説明してくれた

〔普段の生活はNYってことになるが、ハリウッドで撮影に入ったら家を使うと良い〕
〔で…でも、ご迷惑じゃあ〕
〔娘が遠慮するもんじゃないぞ。家の隣にはスージーも住んでいるから心強いだろう〕

そう言って先生は私の眉間をポンッと押した

〔娘…〕
〔そうだよ、キョーコ〕

ポカンとしている私の目をジッと見ながらルイス監督が言った

〔私は君の正式な父親だし、クラリスは正式な母親だ〕
〔こらっ、ルイスッ!!先にキョーコの父に名乗りを上げたのは私だぞ〕
〔養子縁組をしたのは私だ。お前のとこにはクオン君がいるだろう〕
〔おお、そうだった。ふふふ、クオンがキョーコと結婚したら俺も正式に父だ〕
〔先生ぇ…〕

確かに一時期結婚話も出ていたけど…それはもう無効だし
それに蓮には深見さんがいるし…

俯いてしまった私の肩をクラリスさんが撫ぜた

〔大丈夫…あなたが心配することは無いわ。とにかく、ようこそ我が家へ〕
〔そうね…人生なるようになるわ。それにクオンはクーの息子だし〕
〔君の息子でもあるだろう、ジュリ。とにかく家族になれて嬉しいよ、キョーコ〕

そう言ってルイス監督が笑ってくれた

よ…よしっ!

"父さんと母さんは早くキョーコに『パパ』『ママ』って呼ばれたがっているんだ"

蓮の言葉を信じて…

〔ル…ル…ル…ル…〕
〔…キタキツネでも呼んでいるのか、キョーコ?〕
違いますっ!茶化さないで下さい、先生っ!私は真剣なんです〕
〔私は場を和ませようと…〕

気を取り直して…

「テイク2」という幻聴が聴こえる

〔よ…よろしく…お…お願い…します…、ル…ル…ルイ…ス…パパ///〕

場がシンッと静まり返る
私は喉に溜まったツバをゴクンッと飲み込むと、勇気を出して続けた

〔ク…クラリス…マ…マ…〕

言ったっ!

よしっと思って顔を上げると、ルイスパパとクラリスママがポカンと口を開けていた

ま…拙かったかしら…

雰囲気に圧されて〔あ…あの…〕と言うと、2人はハッとした
そしてクラリスママが私を抱きしめ、〔私の娘〕と言ってくれた
そしてルイスパパが私をクラリスママごと抱きしめてくれた


ゴホンッ…おい、ルイス〕
〔……………………何だ?いま良いところだから邪魔するな〕
〔…お前じゃ埒があかん。おい、キョーコッ!〕
〔先生ぇ?〕

クラリスママに抱きつかれたまま首を回すと、何故か先生は怒っていた
私…知らぬ間に不況を買ってしまったのでしょうか…


〔わたしもパパだ〕

はい?

〔わたしもお前の父さんだ。これからは"パパ"と呼ぶように〕
〔え?〕
〔クーが父さんなら私は母さんよ。だからこれからは"ママ"と呼んでね〕

私は吃驚して4人の顔を順に見てしまった
一見怒っているような先生も目は笑っていて…


「はいっ!クーパパ…そしてジュリママ」

言った瞬間、4人の大人に飛び掛られて私の身体は後ろに転がってしまった



〔あ…そろそろ時間かしら〕
〔本当だ。おい、蓮…外を見ろよ。空に面白い物が見れるぞ〕
〔面白いもの?〕

言われるままに空を見ると、東京の曇った空には星も見えなかった

〔何も無いですよ………………あ、飛行機〕
〔その飛行機にキョーコちゃん乗っているから〕

…え?

俺はもう一度空を見上げた
灯りを点滅させながら、上空を飛んでいる

あれ…?

〔社さんっ!!あの飛行機に乗っているって一体…何処に?〕
〔落ち着きなさい〕

ベランダから室内に駆け込み、ダイニングテーブルに座る社さんに詰め寄る
そんな俺の後頭部をスージーがペェンッと叩いた

〔あの飛行機はアメリカ、NY行き。何でか…は明日の昼に分かるわ〕
〔…仕事?〕
〔ノーコメント〕
〔バカンス〕
〔ノーコメント。絶対に教えないわ。少しは待つことを覚えなさい〕

〔でも…〕と言葉を続ける俺に社さんが静かに言った

〔キョーコちゃんは1年近く待ったぞ…お前が彼女を思い出すのを〕

あ…

社さんは食後の珈琲を飲みながら言葉を続けた

〔俺と奏江はキョーコちゃんの"絶対に言わないで"って約束を守った〕
〔それが…約束〕
〔ああ。社長とか3監督とか、お前たちと仲の良い人たちは全員口止めされたんだ〕
〔それで…スージーが…〕
〔ええ。おじ様たちもあなたとの約束で動けないから安心したんでしょうね〕
〔思わぬ伏兵でしたよね、あなたは。奏江が思い出して本当に良かった〕

そう言って2人はしみじみと頷きあっていた
どうやら俺の知らないところで、俺は色々な人に助けられたらしい
当分頭が上がりそうも無い


ピンポーンとインターホンが再び鳴ったのは夜中の2時を回ったころだった

「はい」と言うと「琴南です」と簡潔な返事が返ってきた
俺が『開錠』している間に、スージーは嬉しそうに冷蔵庫に突進した
さよなら、キョーコのお手製プリン…

玄関で出迎えると、琴南さんは俺の目をジッと見た

「…思い出したんですか?」
「ああ、君のお陰で。…ありがとう」
「いいえ。キョーコの為ですから」


部屋に入ると〔お疲れ様〕「お疲れ様」という言葉が琴南さんに掛けられた

〔はい、どうぞ〕

キョーコが作った料理をスージーは琴南さんに出す

〔お腹空いていたのよね〕

琴南さんは満足するまで食べた
(俺にそれを止める勇気も権利も無い)

プリンも全て食べられ、残ったのはせいぜい明日の朝食の分くらいだった


時刻は朝4時

未だ全員元気


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