「京子。新しい映画のオファーが来たわよ」

マネージャーの菅野彩子の声に事務所のTVに釘付けになっていたキョーコはピクッと耳を動かした

本当ですかどんな映画ですか?どんな役を演れるんですかあぁぁ!?
「お…落ち着いて…ルイス監督って知っているかしら?」
「勿論。有名ですもの。現実感のある映画を作るって定評のある監督ですよね」
「その監督からのオファーなの。今度の映画に準主役として出て欲しいって」

その言葉にキョーコは目を見開くと、現実を理解しようとして…頭がショートした


Sleeping Beauty = the first note =


「蓮、次は…の第3スタジオだ。あ、その前に時間があるから飯を食っていこう」
「社さん、俺まだご飯は…
「ふふふん、そう言うと思って最終兵器を用意したんだ多分、この時間はここに居るって」

社が得意気に扉を開けたとき、そこには呆けたキョーコとその周りで慌てる彩子の姿があった
「ど…どうしたの、彩子さん?」と驚いて尋ねた社に気づいた彩子は、キョーコが抜け殻になった経緯を説明した


「おめでとう、最上さん」
優雅な祝辞にハッと現実に戻ったキョーコは慌てて周囲を見渡した
(またやってしまった///)とブシュウと真っ赤になったキョーコの頭を蓮はポンポンと叩いた

「敦賀さん?」
「おめでとう、最上さん。ルイス監督の映画で準主役なんて凄いじゃないか」
「すごいよ、キョーコちゃん。いやぁ、キョーコちゃんもこれから忙しくなるね」
「敦賀君に続いてキョーコもハリウッド進出かぁ…私も忙しくなるわぁ。頑張ろうね、京子」
「彩子さん

キョーコはマネージャーである彩子を姉のように慕っており、彩子も妹のようにキョーコを大事にしていた
「さて、明日は顔合わせよ。監督の代理の方が来るから。英語は喋れるわよね」
「うーん…多分大丈夫だと思います。…あまり実戦で使ったこと無いですけど
「じゃあ時間があるときは蓮にレッスンしてもらいなよ。このお弁当代だと思って」
「でも、ご迷惑じゃあ…」

キョーコはおずおずと蓮を見上げた
片思いではあるが好きな子に上目遣いで頼まれればNOと言えない蓮は笑顔で了承した

〔それじゃあ、日常会話も英語でしようか。社さんも菅野さんも話せるしね〕
〔はうう…頑張ります



キョーコお手製弁当に4人は箸をつけながら、キョーコの新しい仕事について話を続けた

〔へえ…耳の聴こえない少女か…難しいね。手話を覚えるんだ〕
〔ええ。手話については先生が付くから大丈夫だと思うんですけど〕
〔最上さんの姉役である主役は誰が演るんですか?〕
〔えっと…スザンヌ=レヴィー、キョーコよりも2歳年上の人よ。確か今月の雑誌に〕

そう言って彩子は雑誌の見開きを見せた
〔うわぁ。綺麗なひと〕とキョーコは感嘆の声を上げたが、社は目を見開いて箸を止めた蓮を怪訝そうに見た



「んで、キョーコちゃんの相手のスザンヌ=レヴィーって、お前の知り合いなのか?」
「え?」

キョーコたちと別れて、局のスタジオで台本を読んでいた蓮は吃驚して顔を上げた

「どうして?」
「いや。知り合いのような雰囲気だったからな。当たりか?」
「ええ…まあ…………幼馴染なんです

社は蓮が実はヒズリ夫妻の息子であることは既に知っていた
先の仕事で成功し、ハリウッド進出したときに社長と蓮本人から聞いたのだ
そのときは驚いたが、今ではすんなりとその事実を受け止めている
「…んで、昔の彼女か?」と社自身は茶化したつもりだったが、黙った蓮を見て溜息をついた

「何事も無く撮影が終わればいいな
「…無理でしょう。スージーはそう簡単ではないですよ

「久遠=ヒズリが蓮だと、キョーコちゃんにばれなければいいな」
「そうですね」



〔あなたがキョーコ=モガミ?〕

圧倒的な存在感をもつスザンヌ=レヴィーを目の前にしてキョーコは緊張していた

(ふうん。この子がクオンの。へえ…思ったよりも普通の子ねぇ)
(う…うわぁ、本物のスザンヌだ///スッゴク綺麗でも…この人が"姉"!?
(あ…あら?ど…どうしたのかしら突然この子の周りの空気が)

キョーコはこんな華やかな女性が"姉"であることにとても緊張していた
そんなドロドロしたキョーコの暗い気を察知したスザンヌは、引きながらも懸命に踏み止まっていた


〔うんうん、イメージ通りの姉妹だ。ふむふむ〕
〔〔ルイス監督!?〕〕
〔ふふふ。また宜しくな、スージー。そして初めまして、キョーコ〕

ルイス監督はスザンヌと軽く挨拶を交わすと、人好きのする笑顔をキョーコに向けた
その笑顔を見て、キョーコは何処か不安が解消する、そんな温かさを感じた

〔紹介しよう。私の最愛の妻であるクラリスだ〕

監督の後ろから現れた監督より少し若い程度の女性がキョーコに微笑みかけた

〔よろしくね、2人とも。キョーコ、アメリカで撮影のときは是非家に滞在して頂戴ね〕
〔え?いいんですか?嬉しいです。私、ホテルって苦手で
〔うふふその辺りは全てクーに聞いてあるわ〕

実はクラリスとクーの妻、つまり蓮の母であるジュリウェラは幼馴染だった
2人は本当の姉妹のように仲が良く、夫が出来てもその関係は変わらなかった
和やかな挨拶を終えて、その日の対面は終わった


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