「待って…ちょっと、最上さんっ!

スタジオの裏手でキョーコの腕を掴んだ蓮は、グイット腕を引いて脚を止めた
キョーコは俯いたまま握られた手に顔を向けると、やがて肩を落とした

「どうして…スタジオを出て行ったんだ?」
「取り乱してすみません。ただ、何となくあの場には居にくくて」
「…何故?」
「…判りません。でも…スージーと敦賀さんが凄くお似合いで…私なんかじゃあ」
「最上さん?」

蓮はキョーコの台詞に目を瞠ると、俯くキョーコの顔を覗き込んだ
涙を湛えた大きな瞳を見て、蓮は(ああ)と微笑を浮かべた

数分後、漸く落ち着いたのかキョーコがポツリポツリと口を開き始めた

「ごめんなさい…何でだろう、胸が痛くなったんです」
「うん」

蓮は優しい声でキョーコの言葉に相槌を打った

「仕事なのに…だけど、スージーと一緒にいる敦賀さんを見たら」

そう言うとキョーコは握られていない手でグイット涙を拭った

「悔しいんです」
「うん」
「敦賀さんの横に立って遜色の無いスージーを見て」
「うん」
「まだまだ私って子供なんだなって」
「…うん?」

「私なんて色気の"い"の字も無くて。こんな私では敦賀さんの相手役なんて…」
「……………はい!?

そう言ってワンワン泣き出したキョーコに蓮はガックリと肩を落とした

(そう認識したか、この娘は

「敦賀さん。お願いします、どんなに色気がない演技でも見捨てないで下さい!!」
「うん…分かったよ。頑張ろうね…
「はいっ!頑張りますっ!!

さっきまでの桃色な雰囲気はどこ言ったのか
いつの間にやらコーチと生徒というようなスポ根のような雰囲気である

ギュッと拳を固めているキョーコに蓮は溜息を漏らした


Sleeping Beauty = the last note =


化粧直しで一旦スタジオを去ったキョーコを見送っていた蓮の横にスザンヌが来た

〔ワザとだろう?〕
〔何のことって言いたい所だけど。そうよおじ様たちに頼まれたの
〔…復讐云々というのは?〕
〔嘘よあれから何年経っていると思っているの?いつまでも引き摺れないわよ〕
〔君らしいよ…スザンヌ

苦笑する蓮にスザンヌはにっこりと笑った

〔私とあなたは似た者同士だったのよ。兄妹を慕う愛情だったんだわ〕
〔そうだね…俺もあの後気づいたよ。でも俺は君に傍にいて欲しかった〕
〔私たちはお互いの良き理解者だったのよ。…それにね、私、キョーコが大好きなの〕
〔そうか…姉妹のようだもんな〕
〔ええ。あんな妹が欲しいわ。そ・れ・に、あなたと彼女がくっ付けば、私の妹になるのよ

スザンヌはスタジオ入りしたキョーコに目を移した
キョーコを見るスザンヌの眼はとても優しく、まさに姉が妹を見守る目だった

〔だから、頑張ってね彼女を未来の義妹にするために〕
〔まあ、頑張るは頑張るよ。ただ…一筋縄じゃ行かないよ彼女の事はきいているんだろ?〕

掌を返したようにエールを送るスザンヌに苦笑しながら、蓮はキョーコに目を移して口を開いた

〔ええ。もう恋なんてしないなんてね…恋を怖がっているのね。さしずめ彼女は茨姫かしら?〕

にやっと笑いかけてきたスザンヌに蓮は目を瞠った
「準備OK」という声にハッとすると、蓮はスザンヌにウインク1つ送ってクルリと背を向けた

〔じゃあ俺は血を流して彼女に近づきますか

そう言って蓮は後ろでに手を振るとスタジオの中央に向った



撮影が始まり、2人がゆっくりと動くのをスザンヌはじっと見ていた
白いドレスを着たキョーコが白いシャツに着替えた蓮にぎゅっと抱きつく

(あら?…ふふ、キョーコッたらクオンったらきっと内心慌てているわね)

内心笑いながら二人を見ていると、キョーコがチラッとスザンヌを見た
そしてギュッと蓮の首にしがみ付いた

(キョーコ?)

キョーコはスザンヌから視線を外してカメラを見ると、キッとを睨みつけ…そして嫣然と笑った
それを見ていたスザンヌは一度は目を瞠ったが、やがて小さく苦笑を漏らした

(どうやら茨姫を守る茨は、あなた一人分位はあいている様よ。頑張ってね、クオン

〔ミッション・コンプリート〕と呟くと、スザンヌは携帯電話を片手にスタジオを出て行った


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